砂漠の旅人(たびと)

電脳砂漠を旅する、ある旅人の日記。フロッピーを頼りに歩いた日から、クラウドの地平を見つめる今日まで。見つけたオアシスも、迷い込んだ砂の迷宮も、全てこの羊皮紙に。

炎上しない旅路の描き方 ~「重要度×緊急度」の呪いを解き、キャラバンを導く~

長い旅路の先に、ようやくオアシスの気配だ。さて、どんな知恵が湧いている泉だろうか。

あんたの目の前にある、果てしないタスクのリスト。「重要度:中・緊急度:高」と「重要度:高・緊急度:中」、結局どちらから手を付けるべきか…その迷宮で、あんたは今日も立ち尽くしていないだろうか。

その迷いこそが、プロジェクトという名のキャラバンが、炎上という名の地獄へと向かう、全ての始まりなのだ。 私はこれまで、数多くの炎上プロジェクトの鎮火にあたってきた。その経験から断言する。プロジェクトの成否は、この「重要度×緊急度」という、古の魔法の本質を、理解しているかどうかにかかっている。 この羊皮紙には、あんたが二度と優先順位の迷宮で彷徨わぬための、驚くほどシンプルで、誰にでも実践できる、真の羅針盤の作り方を記した。

この羊皮紙のあらまし

この羊皮紙が導く者

  • 「重要度」と「緊急度」、二つの言葉の呪縛から解放されたい者
  • 感覚ではなく、揺るぎない基準で、自らの旅路を定めたい探求者
  • 炎上という名の地獄から、仲間を救い出したいと願う全ての指導者

なぜ、我々は迷うのか?:「判断基準」というモノサシの不在

かつて、霞が関という名の、巨大な城で、ある省庁の緊急時対応計画を説いた時のこと。一人の切れ者から、鋭い問いを投げかけられた。 「素晴らしい計画だ。だが、未知の事態に遭遇した時、我々は何を基準に判断すればよいのか?その『モノサシ』を、我々に授けてほしい」 私は、即答できなかった。

この「モノサシ作り」の経験から学んだことがある。真に価値あるモノサシとは、複雑で、精緻なものではない。誰もが、同じように理解できる、究極にシンプルなものだ。 しかし、皮肉なことに、シンプルなモノサシほど、「当たり前のことしか書いてない」と、軽んじられる。だが、忘れてはならない。混乱の極みにある戦場で、我々を救うのは、難解な兵法書ではなく、その「当たり前」なのだ。

優先順位を支配する、たった二つの定義

さあ、タスク管理における、究極のモノサシを授けよう。 それは、「重要度」と「緊急度」の定義を、たった一つずつに絞り込むことから始まる。

重要度とは:「変化せぬ」価値の軸

重要度のモノサシは、「高い」か「低い」かの二択。そして、その定義は一つ。重要度は、原則として「変化しない」。

決して揺らがぬ、価値の縦軸

緊急度とは:「変化する」時間の軸

緊急度のモノサシは、時間。そして、その定義もまた一つ。緊急度は、必ず「変化する」。

常に流れ続ける、時間の横軸

優先順位は、この4領域しかない

この二つの軸を組み合わせれば、全てのタスクは、4つの領域に分類される。A→B→C→D。これこそが、議論の余地なき、絶対の優先順位だ。

全てのタスクを支配する、四つの領域

【実践編】炎上プロジェクトという地獄での立ち回り

もし、あんたのキャラバンが炎上しているなら、この四つの領域は、強力な武器となる。 まず、目標を7割に下げ、それ以外のタスクは全力で捨てろ。 そして、残ったタスクを、この理に従って捌くのだ。

  • A領域: 全リソースを注ぎ、鎮火せよ。
  • B領域: 督促が来るまで放置せよ。
  • C領域: Aに変わる前に、延期交渉か、誰かに押し付けろ。
  • D領域: 完全に忘れろ。

管理者が、真に管理すべき場所

現場の者は、どうしても目の前のA領域の炎にばかり気を取られる。 しかし、キャラバンを導く者(管理層)が、真に監視すべきは、誰も気にしていない「C領域」に仕掛けられた、時限爆弾だ。

炎上の予兆は、常にC領域から聞こえてくる

管理者の仕事は、報告書を作ることではない。C領域の時限爆弾が爆発する前に、先手を打って解除し、仲間を雑務から守り、A領域の鎮火に集中できる環境を創ること。 それが、唯一にして最大の責務なのだ。

羊皮紙を巻く前に

今回紹介した秘儀は、突き詰めれば「重要なものを先にやれ」という、ごく当たり前のことだ。 しかし、その「当たり前」を、誰もが同じモノサシで、迷いなく実行できる仕組みこそが、プロジェクトという名の長い旅路を、炎上から救う。 そして、この手法の真髄は、誰もが見落としがちな「緊急度=時間」という、変化の概念を、常に意識できる点にある。

タスクの洪水の中で、シンプルに考えること。それこそが、我々冒険者にとって、何よりの武器となるだろう。

少し目が疲れてきた。星でも眺めながら、しばし休むことにするか。

ラクダの独り言

ご主人が「じゅうようどがー」とか「きんきゅうどがー」とか、やけに難しい顔で、羊皮紙に四角いマス目を描いている。俺に言わせりゃ、そんなもん、目の前にある一番美味そうな草から食っていきゃ、それでいいだろうに。まったく、人間ってのは、簡単なことを難しくするのが好きだな。やれやれだぜ。